無論、『ミトコンドリア・ミステリー』から伝わってくるのは、林氏という一研究者の持つ清々しい生き様だけではない。林氏の研究が今後のミトコンドリアの研究に大きな影響を及ぼすことが予想されることから、そうした林氏の研究内容を知るだけでも一読の価値はあると思うのである。すなわち、ミトコンドリアDNAの突然変異のために癌になるというのが、従来のミトコンドリア研究者の説の主流を成していた。そうした従来説を林氏が完膚なまでに打ち砕き、ミトコンドリアDNAが癌の原因ではないことを実証してみせたのである。また、老化が起こるのはミトコンドリアのためと専ら信じられているが、この老化説も林氏は実験によって完全に否定しただけでなく、同時に「ミトコン ドリア連携説」という独特の林説を提唱されたのである。
ともあれ、科学の分野に限らず、日本という環境下では主流となっている説に異論を持ち出すのは非常に勇気の要ることであり、そのために干されることも少なくない。それでも敢えて自説を曲げず、従来の主流であった説を覆した林氏に心からの拍手を送りたい。