ひどく皮肉な評である。
漢学と洋学のパラダイム転換期に成人した愛国的ディレッタントの一典型を大室はすくい取っている。
中国史に社会学的接近をはかる大室の炯眼は、「流麗なる」志賀の漢文に杜撰・誤魔化しを見逃さなかった。本書冒頭を一読あれ。志賀の文章の解析から、志賀の(したがってまた当時かれの諸作をもてはやした類の読者たちの)よってたつ知性の底が暴露される。
志賀のような愛すべく単純な人柄においては一事が万事である。以下、『日本風景論』を経て、日露戦争勝利後、国粋主義者志賀が豚の安逸に落ち着くまでを丁寧に追う。豚にブタみたいだと言っても、怒りを買うことはあるまい。
文中、内村鑑三の地理学が対比される。かれの『地人論』が、本書に併せて岩波文庫で復刊した。
『月瀬幻影―近代日本風景批評史』の姉妹書。