これらの内容は、中村さんによる綿密なリサーチと、ご自身が見聞きしたことに裏付けされているから、読んでおもしろいだけでなく、ピアノや音楽についての知識も深まる。音楽オンチの私でも、この本に登場する音楽家の作品を聞いてみたいと思うようになった。
以前、ピアノを弾きながら料理をしている紘子さんをテレビで拝見して感嘆した覚えがあるが(ピアノと料理の腕前+ユーモアに)、文才にまで恵まれているとは。多才な方だと脱帽。
記憶を失った主人公の、それまでの生活の「無さ」、過去との「断絶」、そして今ここにいる自分から生まれる「人間関係」、そして「恋」、それが語られるのが1巻の『COLD SLEEP』である。
普通の記憶喪失もののように、軽々しく失われた過去を語ったり、記憶喪失を軽く扱ったりはしない。
読者も、主人公と同様、ただ、「何も覚えていない」という現実に放り込まれるだけである。
そして一から始めていく人間関係と、そこでの純真な恋、それが鮮やかに、しっかりと書かれている話だと思う。
(木原さんは痛い系の話が多いですが、『COLD SLEEP』は痛い系ではないですよ♪) 現在・過去・未来の現在記憶喪失もの大好物!木原音瀬さんは記憶というキーワードが好きっぽい。「子供の瞳」という本は記憶が後退して子供に戻った兄が「Loop」という本では前世の人格に乗っ取られる攻が出てくる。その木原氏が3冊といったら3冊なのだ。独りの記憶喪失になった男の現在・過去・未来を丁寧に辿って生まれ直させる再生の話。高久透という男が全く白紙の状態で放り出されて、年上の男・藤島に無条件に守られる。だが藤島は過去を語ろうとしない。……そう、木原氏は年下攻の名手でもあるのだ!