僕は賢くないので評論家としての江藤淳を学問的に評価することはできない。ただ、江藤淳の愛を感じることはできた。どこがどうと指摘できないのが残念だ。でも、江藤淳が文学に対して抱いているとても優しくて温かい愛は、僕の心も温めてくれた。 この人が生きている間に読んでおけばよかった。そんなふうに思いました。
例えば『翁』に関して。舞台上で面をつけた翁は舞に入るところで、梅若家に伝わる型附(振付を記した本)にはこう書かれているそうです。「体ハソル心、両眼ヲフサグ」
実際に体を反らせるわけではなくて体を反らせる「気持ち」なって、そして面の中に隠された外からは見えない目を閉じる。演技的に何らかの意味があるのか不思議に思います。しかしその内面の動きを体現することこそ観客に何かを伝えるきっかけになる。そう、この書は説きます。
能舞台や装束、面、役柄、歴史といった基礎知識に関しての記述ももちろんあります。しかしそれ以上に能の演技とは、能の型とは、能の最高の境地とは、とそういったことを解き明かそうとされた名著だと思います。
…後半になると一読ではちょっと理解しきれなかった部分も多いです。しかし、一応読んでおくことでいつかふと分かる日もあるかもしれない。そう感じました。